青森の未来を耕す人たち

多田慎也さん
河野圭一さん
株式会社ワールド・ワン 代表取締役社長 河野圭一さん
青森りんご専門店 à la ringo(あら、りんご。)

1971年、兵庫県神戸市出身。工業高校電気科を卒業後、自動車整備工場に入社し自動車整備士として勤務。自動車整備工場を退社後、飲食業界に入り兵庫県で店舗を構えるが、その後閉店。1999年1月、闘龍門JAPAN所属選手となり、プロレスラーとして全国を巡業。2002年、神戸三宮に沖縄郷土料理店「modern食堂 金魚 本店」をオープン。その後、出店を重ね、現在は関西を中心に約30店舗のご当地居酒屋を展開。そのうち、青森に特化した居酒屋は、神戸と東京で計4店舗展開。2019年5月には、神戸市に青森りんごに特化したお店「à la ringo」をオープン。

【「à la ringo」概要】
2019年5月、神戸三宮にオープンした青森りんごの専門店。季節ごとに収穫されるさまざまな品種のりんごを販売するほか、アップルパイやりんごのクランブルなどのスイーツ、生絞りりんごジュースやサイダー、アルコールドリンクも販売。店舗は2階建てで、1階がテイクアウト・物販、2階はイートインスペース。

à la ringo
兵庫県神戸市中央区下山手通3-10-1 TRSXビル1、2階
TEL:078-334-1105
営業時間:10:00~20:00
定休日:火曜日(火曜日が祝日の場合は、水曜日)

―貴社の事業内容を教えてください。

当社は、“日本全国各地の郷土の食文化を通じて、郷土と地域をつなぎ、ニッポンの風景を熱くする郷土活性化企業”をキャッチフレーズに、関西を中心に、約30店舗のご当地居酒屋を展開しています。沖縄や山陰地方など、神戸では流通しにくい食材を産地直送で仕入れ、郷土の味や食文化をまるごと体感できる店を運営しています。

河野圭一さん

―青森県に特化した居酒屋も展開していらっしゃるそうですね?

2017年、神戸市内に青森に特化した居酒屋第1号店となる「青森ねぶたワールド 三宮本店」をオープンしました。お客様から大変好評だったことから、その後も店舗を増やし、現在は、神戸と東京で計4店舗の居酒屋を展開しています。各店舗には、ねぶた師の竹浪比呂央さんのねぶたや、五所川原の立佞武多や弘前ねぷたのミニチュアを展示するなど、青森を代表する祭りの世界観を再現しています。

―青森県とのご縁が生まれたきっかけは何ですか?

2016年に、青森県庁の担当者から「A!premium」という物流システムをご紹介していただいたのがきっかけです。「A!premium」とは、青森県とヤマト運輸が提携して行っている青森県産生鮮品の保冷輸送サービスです。通常であれば、青森から関西までの配送は2~3日かかりますが、このシステムを利用すれば、その日に水揚げされた魚介類が翌日の午前中には神戸に到着します。テストマーケティングで送られてきた青森の魚介類を見て、厨房の料理人たちも驚きました。ヒラメはきゅっと身が締まり味も濃厚。鮮度・味のクオリティーともにピカイチです。神戸ではなじみのない魚も多かったのですが、食べてみるとどれもとびきりおいしい!神戸ではまだ知られていないからこそ、多くの方に青森の食に興味を持っていただける機会になるのではないかと思いました。

―「A!premium」を利用される前は、河野社長は、青森の獲れたての魚介類や農産物を召し上がったことはありましたか?また、関西で青森の食材はどのくらい認知されていましたか?

残念ながら、私自身も青森の魚介類や農産物をいただく機会はほとんどありませんでした。関東であれば、青森の料理を食べられる店があると思いますが、関西は距離的に青森から離れていることもあり、青森の生鮮食材はほとんど流通していません。そのため、多くの関西の人たちは、青森の食材にふれる機会もなく認知度が低かったのが現状です。

―青森県内の農業・漁業の現場をまわられたそうですね。青森の食、または文化について印象的だったことはありますか?

河野圭一さん青森県庁の方にアテンドしていただき、春夏秋冬と、5回ほど県内津々浦々を巡りました。それまでは、青森の魚といえば大間のマグロくらいしか思い浮かばず、北海道の海の幸に比べて地味な印象だったんです。でも、実際に訪ねてみると、季節によって魚種も多種多様で、おいしい魚介類の宝庫!また、海の幸だけではなく、十和田湖・小川原湖など湖の資源、嶽きみ、馬肉の文化など、海、山、湖、里の食材がとにかく多彩で面白い!吹雪のなか、生産者の方々と一緒に「ふかうら雪人参」を収穫させていただきましたが、しぼりたてのニンジンジュースのおいしかったこと!そのほか、海峡サーモン、佐井村のアピオス、津軽の梵珠そば、そして、八戸の舘鼻岸壁朝市…。私を含め、関西の人たちは、青森の食材といえば、りんごとホタテしかイメージできない人がほとんどですが、青森に行くたび新しい発見がありました。
おいしい水とお米がとれるので、地酒も素晴らしいですね。そして、青森はラーメンも抜群においしいですね。 煮干しラーメンにすっかりはまってしまって、ほとんどの店を制覇してしまったくらいです。
また、青森ねぶた祭りでは2年連続で跳ねました。アテンドしてくださった県の方々の祭りに対する情熱や、県民の皆さんの“青森愛”が半端なくて、その姿に当店のスタッフも感激して、最後は全員、熱狂的な青森ファンになってしまいました。

―2017年、神戸市内に青森に特化した居酒屋オープンする前に、既存店などで「青森フェア」を開催したそうですが、お客様の反応はどうでしたか?

青森県内に足を運びながら、併せて当社の既存店などで1年間「青森フェア」を開催したところ、関西のお客様からの反応がとても良く、ビジネスとしても「いけるで!」という手ごたえを感じました。そこで、2017年、神戸市内に青森第1号店となる「青森ねぶたワールド 三宮本店」をオープンしました。

―青森県産食材を扱う居酒屋に来店されたお客様の反応はいかがですか?

やはり、お客様に一番人気なのは、「 A!premium」で直送される新鮮な魚介類です。青森の食材や食文化は、神戸ではほとんど認知されていないので、ホヤをお刺身で食べると聞いて、お客様も「ホヤって生で食べれるんか?」と。ですが、一度食べると必ず皆さんそのおいしさにはまりますね。そのほかに人気なのは嶽きみです。お客様は一般的なとうもろこしだと思って食べるのですが、嶽きみを口に入れた瞬間、「なんや、これ!」と、糖度の高さに驚かれますね。あとは、十和田バラ焼きなどの B 級グルメや五所川原の馬刺しも人気で、幅広い年齢の方がリピーターとして来店しています。また、当店を通じて青森ファンになったお客様が、また違うお客様を連れてきてくれて、青森自慢をしてくれることもあります。当店を通じて、日ごとに青森ファンが増えてきているようで、私もとても嬉しく思っています。

―青森で農業や漁業に従事している方たちは、自分たちの技術を教え合い、青森という産地全体で良いものを提供していこうと努力しています。水揚げされた魚の鮮度を保つために特殊な技術を施す“神経締め”もその一例です。そうした青森の農業者、漁業者に対してどんな想いをお持ちですか?

一般的に漁師の方たちは、自分たちの技術は他の漁師には教えないことが多いのですが、青森の方々はすごく前向きにチャレンジしているという印象を受けました。私たち店側のこともすごく気にかけてくれて、「この前、送った魚どうだった?」とか、「前回はこういう形で送ってみたんだけど、こういう方法でも対応できるよ」などと、あちこちで声をかけていただきました。「 A!premium」という流通システムのメリットはもちろんですが、誇りと情熱を持った素晴らしい方たちとお取引できることに喜びを感じています。「青森ねぶたワールド」のメニューには、青森の生産者さんや漁師の方の顔写真を添えて、彼らの想いや心意気も一緒に届けるようにしています。

―2019年5月には、神戸市に青森りんごに特化したお店「à la ringo(あら、りんご。)」もオープンしたそうですね。オープンのきっかけや、お客様の反応について教えてください。

「à la ringo」は、青森のりんごを使ったスイーツと生果のお店です。青森を訪問した際に、たくさんのりんご農家の方とお会いする機会がありました。樹齢100年以上の木を大切に守りながらりんごを作っているご家族や、土作りにこだわって栽培方法を毎年工夫している方など、それぞれにアツい想いや強い愛情があり、私はとても感動しました。しかも、りんごにアツい想いを持っているのは、りんご農家の方だけではありません。たとえば、漁師さんや街で出会った方たちも、りんごに対して熱く語ってくれて、まるで誰もがりんご博士のようだなと感じました。今までたくさんの産地を訪ねましたが、青森の皆さんのように1つの食材に愛とプライドを持って、一生懸命伝えようとする真摯な姿には出会ったことがありません。そこで、青森の皆さんのりんごに対する想いを広く伝えると同時に、世界一おいしい青森のりんごをぜひ神戸の方にも味わってほしいという思いから店をオープンしました 。

店内

―お店では、どんな商品を提供していますか?

「à la ringo」の1階では、りんごスイーツなどのテイクアウトと、旬のりんご4~5種類の生果販売を行っており、2階はイートインスペースになっています。生のりんごは、1年を通してその時に一番おいしいりんごを青森から直送してもらっています。スイーツメニューに関しては、余分なものは使わず、青森りんご本来の甘さや酸味を活かすレシピにこだわっています。「りんごのクランブル」、「焼きりんご」、「りんごパイ」といった青森りんごをふんだんに使用したスイーツメニューのほか、「りんごサイダー」や「りんごジンジャーエール」などのドリンクメニューもそろえています。

店内 商品写真

季節によって、メニューも変更になりますが、青森りんごそのもののおいしさを伝えたいので、素材に手を加え過ぎたり、凝ったメニューではなく、りんごのおいしさをダイレクトに味わえる素朴で親しみの持てるメニュー展開を心がけています。

―神戸は、日本有数のスイーツ激戦区ですよね。そんななか、青森のりんごや、りんごスイーツを召し上がってくださったお客様の反応はいかがでしたか?

オープン後は、開店前から長蛇の行列ができるほどの大盛況でした。開店後、数ヶ月経った今でも様々なメディアに取り上げられることもあり、おかげさまで大人気の店舗です。生のりんごを購入されたお客様は、やはり「これまで食べていたりんごとは味も食感も別物!甘くてみずみずしい!」「スーパーのりんごとは香りが違う!」と、とても感動されます。テイクアウト、イートインコーナーともに連日、たくさんのお客様が訪れてくださり、おかげさまでリピーターもどんどん増えています。これまで青森りんごにあまり馴染みのなかった関西のお客様にも、青森りんごのおいしさとクオリティーの高さを知っていただくきっかけになりました。

―店内では、青森の生産者の方などを招いてイベントも開催しているそうですね?

これまで、大鰐町の山田果樹園さんによるりんご即売会や、八戸市の食育研究家・なぎさなおこさんによるアップルパイ作りのレッスンなど、青森りんごのおいしさや可能性をPRできるようなイベントも行いました。関西の人にしてみれば、青森の生産者の方から直接りんごを購入したり、旬のりんごでお菓子を作ったりするのは、なかなかない機会です。いずれも大好評だったので、今後も青森りんごの素晴らしさを多くの方に知っていただけるようなイベントを開催したいと思っています。

―今後、さらに青森に関する企画を実施したり、新店舗を展開したりする予定はありますか?

店内ディスプレイ「à la ringo」を通じて青森りんごを知った方たちが、青森に行った時に立ち寄れるようなりんごの生産加工・流通販売の拠点を青森県内に作りたいと思っています。青森の人たちのアツい想いを伝えたいと思って「青森ねぶたワールド」や「à la ringo」を始めたので、長く地域に根ざしていけるような場所にしたいですね。

―青森の未来、ポテンシャルについて感じることはありますか?
また、青森県内の若者に対してメッセージをお願いします。

私たちは、職業柄いろんな地方を回るのですが、そこには必ず人がいます。青森の方たちは出会った瞬間は無口なので、「この人、怒ってるのかな?」と、不安になったこともありました。ですが、訪問するたびに心を開いてくれるようになり、最終的には「おかえり」というような感じでとても温かく迎えてくれます。それに、漁師や農家の方々だけでなく、流通に携わる方もアツい方が多いですね。地方の産地を巡ると、「この先、先細っていくだけだ」というような疲弊した空気を感じることがあるのですが、青森にはそれがないんです。やはり、その根っこには、ねぶた祭りの文化があるのかなと思います。当店の若いスタッフたちもすっかり青森ファンになってしまい、自費で青森を旅行しています。

青森の方たちは、謙虚というか、せっかくの地元の魅力をきちんと伝えきれていないのではないかなと思います。私に言わせれば、「青森はすごいぞ!どこにもない魅力がいっぱいあるじゃないか!」と。もし、若い方たちがそれに気づかず、青森には何もないと決めつけているとしたらもったいないと思います。たとえば、青森の方にとっては当たり前の光景だと思いますが、関西人から見ると、車で走っている時に、ズラーッとりんごの木が並んでいるだけでものすごく感動するんです。当社の若いスタッフたちも感激しており、またその光景を見に行きたいと話していました。
河野圭一さん

青森には、食の魅力はもちろん、他県の人をとりこにするアツい情熱を持った人がたくさんいます。ですから、青森の若い方たちも、県外の若者からも高く評価されている青森の素晴らしい食や文化に目を向けて、その魅力をもっと積極的に発信してもらいたいと思います。

私も若い頃は地元から早く出たいと思っていましたが、阪神・淡路大震災という大きな災害によって、ある日突然、自分の生まれ育った街が失われた様を目の当たりにして、初めて「ああ、取り戻せないものがあるんだ」と、故郷の大切さを痛感しました。失ってから後悔するより、今あるものの価値や大切さにどれだけ気づけるか。そのような感度が非常に大事だと思います。一度、青森を離れた方も、外から客観的に見た時に初めて気づくことがいっぱいあると思うんですよ。一度離れてみて、「青森の食べ物はなんておいしんやろ、なんて素晴らしいんやろ」って。なので、青森には何もないと決めつけるのではなく、今そこにあるものの価値に目を向けてほしいと思います。

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